フーリエ解析学の序章

杉山健一 著
A5判・並製・176頁・定価2300円+税

理論・応用を問わず様々な分野で有用であるFourier解析学の入門書. 理論だけではFourier変換の威力が実感されないので,整数論, 幾何学, 解析学, 物理学, 工学などへの諸分野への応用も解説した.

まえがき

 Fourier解析は,理論・応用を問わず様々な分野で有用である.
本書ではそ の入門として次の場合のFourier変換を解説する.

 (1)有限巡回群上定義された関数のFourier変換.
 (2)周期関数のFourier変換.
 (3)急減少関数のFourier変換.
 (4)超関数のFourier変換.

 一見するとこれらの話題は独立であるように思われるが,実は一般化により

     (1)→(2)→(3)→(4)

という関係があり,その過程でFourier変換の思想は一貫している.そのた め,本書ではFourier変換の基本的な思想や理念を最も簡単な場合(1)で説明 し,その発展として残りの場合を解説する方法をとった.また(4)で定義す るDirac超関数や櫛形超関数はすでに(1)で登場しているので,必要に応じ て(1)を参照すると扱われる内容や定理が理解しやすいと思われる.

 また理論だけではFourier変換の威力が実感されないので,以下の分野への 応用を解説した.

 (1)(整数論)Gauss和とJacobi和,平方剰余の相互法則,有限体上定義さ れたFermat曲線の有理点の個数の数え上げ,Eulerの等式(ゼータ関数の特 殊値).
 (2)(幾何学)離散等周問題,等周問題.
 (3)(解析学)線型微分方程式,Weierstraussの多項式近似定理.
 (4)(物理学)(離散)不確定性原理
 (5)(工学)CT(Computer Tomography),Digital samplingの理論.

 これ以外にも様々な応用があるが,それを本書で網羅するのは明らかに不可 能であり,比較的説明しやすい例を挙げるのに留めた.

 本書で扱うのはすべて可換群上のFourier解析学である.非可換な群でも Fourier解析学が展開され,表現論や保型形式への応用があり大変重要である が,それは本書の範囲を逸脱する.巻末に挙げたA. Terrasの教科書がその 分野の入門書として読みやすい.

 本書では予備知識は(学部2年までに学習する)線型代数と微分積分学の基 礎知識があれば十分読めるように工夫したつもりであるが,馴染みがないかも 知れないと危惧される幾つかの事項については付録で解説した.また計算もな るべく省略しないように心がけたが,やはり数学なので実際にペンを持って計 算を追うことを強く勧める.最後に,本書が広大な「Fourier解析学」という 分野への入り口となれば,著者の望外の喜びである.

                                   2018年初夏 著者記す

目次

第 1 章 有限巡回群上の離散 Fourier変換

1.1 導入
1.2 有限巡回群 Cn上の関数空間 L2(Cn)
1.3 指標関数
1.4 離散 Fourier変換
1.5 離散等周問題
1.6 Gauss和
1.7 平方剰余の相互法則
1.8 2変数の Jacobi和
1.9 有限体上の Fermat曲線の有理点の個数
1.10 不確定性原理
1.11 第1章の付録(可換群からの準備)


第 2 章 周期関数の Fourier変換

2.1 導入
2.2 数列の空間と周期関数空間
2.3 空間の完備化
2.4 Fejer級数
2.5 微分可能性
2.6 Weierstraussの多項式近似定理
2.7 Eulerの等式 (ゼータ関数の特殊値)
2.8 線型微分方程式
2.9 等周問題 (Didoの定理)


第 3 章 急減少関数の Fourier変換

3.1 導入
3.2 急減少関数
3.3 1変数 Fourier変換と Fourier逆変換
3.4 Fejer核関数
3.5 反転公式と Planchrelの公式
3.6 2変数 Fourier変換
3.7 Radon変換と CTの原理


第 4 章 超関数の Fourier変換

4.1 導入
4.2 超関数
4.3 超関数における基本的な演算
4.4 超関数の Fourier変換
4.5 急減少関数と超関数のたたみ込み
4.6 Poissonの和公式
4.7 Digital Sampling


付録
A.1 Hermite内積
A.2 一様収束,一様ノルム
A.3 Leibnitzの公式

参考文献