15週で学ぶ複素関数論 改訂版

志賀弘典 著
A5判・並製・192頁・2300円+税

初版では工学部ないし物理系学生向けということを強く意識したが,改訂版では、数学専攻の学生用の簡便なテキストとしても十分な内容を備えたものとするために,複素一次変換の章を1章付け加えた.

まえがき

 本書は,理学,工学系で物理学,とくに電磁気学を学ぶ際の数学的基礎とな る複素関数論の理論と実際を,最短の労力で理解できるよう解説した教科書で ある.また,数学専攻の学生のための複素解析の一応の入門書としても利用で きるだけの論理的整合性を保つよう努めた.
 全体の構成上で留意したのは以下の諸点である.
 1)道具としての複素関数論は通常1セメスター13,4回の講義で行われる. その範囲の回数で収まるよう,各章は1回ずつの講義に見合う読み切りの形で 記述した.
 2)無用な一般論を避け,必要かつほぼ十分と思われる内容を,数学的に一 貫した論理的記述でコンパクトにまとめた.
 3)各章の演習問題によって理論の骨子が見通せるように配慮した.これら は,理論の本質を現象を通して理解する機会となることを意図した.解答はで きるだけ詳しく解説した.
 4)微積分学の基礎知識は仮定したが,用いている個所ではその内容を指摘 した.また,偏微分方程式論,フーリエ解析の理論との接続も意識し,フーリ エ展開の定理は証明なしに用い,その展開の妥当性を演習問題とした.
 なお,第13章のグリーン関数によるディリクレ問題へのアプローチは,省 略したりレポートとするのが望ましいと思われる.また,第9章で留数計算に よる定積分の計算を行っているが,1回の講義では収まらないと思われる.第 10章は偏角の原理の話だけなので,この2つの話題はコミにして2回という つもりである.
  2006年2月
                                 著者

改訂に当たって

 今回,以下の点に注意して改訂を行った.
 初版では工学部ないし物理系学生向けということを強く意識したが,数学専 攻の学生用の簡便なテキストとしても十分な内容を備えたものとするために, 複素一次変換の章を別章として加えた.11章以下15章までを省略して,複素 一次変換の章を加えれば数学科向けの標準的な講義内容となる.
  2007年10月
                                 著者

目次

まえがき

読者の便宜のために

第0章 なぜ複素関数か?
 0.1 数学は進歩している
 O.2 複素関数論とは? その効用は?

第1章 複素数と複素平面
 1.1 複素数の定義と性質
 1.2 複素平面上の集合についての諸概念
 1.3 1の巾根
 第1章 演習問題

第2章 複素微分可能性,正則性
 2.1 正則性の概念
 2.2 複素関数の実部と虚部への分解
 2.3 コーシー・リーマンの関係式
 2.4 逆写像定理
 第2章 演習問題

第3章 複素巾級数
 3.1 巾級数の収束半径
 3.2 巾級数が定める正則関数
 第3章 演習問題

第4章 初等超越関数
 4.1 実変数での復習
 4.2 複素関数としての指数関数,三角関数
 4.3 複素対数関数,複素巾関数
 4.4 複素関数による写像
 第4章 演習問題

第5章 複素線積分とグリーン・ストークスの定理
 5.1 実平面上の線積分
 5.2 複素線積分
 5.3 グリーン・ストークスの定理
 第5章 演習問題

第6章 コーシーの積分定理,コーシーの積分公式
 6.1 コーシーの積分定理
 6.2 コーシーの積分公式
 第6章 演習問題

第7章 巾級数展開とその応用
 7.1 巾級数展開可能定理
 7.2 正則関数の性質
 7.3 モレラの定理
 第7章 演習問題

第8章 孤立特異点とローラン展開
 8.1 孤立特異点とローラン展開可能定理
 8.2 孤立特異点の3分類
 8.3 留数の導入
 第8章 演習問題

第9章 留数定理
 9.1 有理型関数と留数定理
 9.2 留数を用いた定積分の計算
 第9章 演習問題

第10章 偏角の原理など
 10.1 有理型関数の零点と極
 10.2 偏角の原理とルーシェの定理
 第10章 演習問題

第11章 ラプラス方程式その1:調和関数論
 11.1 調和関数と正則関数の関係
 11.2 調和関数の平均値の性質と最大最小値の原理
 11.3 調和性の極限移行
 第11章 演習問題

第12章 ディリクレ問題
 12.1 円板におけるディリクレ問題
 12.2 解の存在と一意性
 12.3 円周上まで有効な単位円板でのディリクレ問題の解表示
 第12章 演習問題

第13章 グリーン関数によるディリクレ問題の解の構成
 13.1 平面でのグリーンの公式
 13.2 グリーン関数の方法

第14章 ベクトル解析からの準備
 14.1 ベクトル解析の記号
 14.2 ガウスの発散定理等
 第14章 演習問題

第15章 電磁場のポテンシャル論
 15.1 静電磁場のポテンシャル論:これは数学の範疇
 15.2 定常電流と静電場
 15.3 ポアッソン方程式と電磁気学の基本法則
 15.4 マックスウェルの方程式:電磁場が時間に依存して変化する場合
 第15章 演習問題

第16章 複素一次変換
 16.1 リーマン球面P1と立体射影
 16.2 複素一次分数変換
 16.3 正則関数の等角性
 16.4 正則同型,等角同型
 第16章 演習問題

演習問題解答

参考文献

数学者リスト