整数の分割

まえがき

 これは整数の分割についての書物である.これまで整数の分割ということを聞いたことがなかったとしても,それがどういう意味かすぐ理解できるだろう.例えば,3 を正整数の和に分割するとして,何通りの分割が可能だろうか.まず,3=3 である.次に 3=2+1 であり,また 3=1+1+1 でもある.このまったく初等数学的な考察から,答えは「3 の分割は 3 通りある」となる.  整数の分割の理論について書かれた文献は,これまで,すべて数学の専門家向けのものであった.だが,整数の分割とは何かを知ってみれば,数学の進んだ知識がなくともその研究ができるはずだという,われわれ著者の意見に同感してもらえると思う. 本書は,その欠落を埋めるために書かれたのである.  整数の分割の研究は多くの偉大な数学者を魅了してきた.ちょっと考えるだけでも,オイラー,ルジャンドル,ラマヌジャン,ハーディ,ラーデマッハー,シルベスター,セルバーグ,そしてダイソン等の名が挙がる.彼らはみな,このじつに単純な数学的対象についての高等な理論の発展に貢献した.本書では,予備知識 0 からスタートし,まったく簡単な題材から未解決の問題にまで読者を一歩一歩導いていくつもりである.取り上げる話題は,このテーマの核心部分にストレートに到達できるように考えて選択されている.  われわれは,整数の分割の全理論の中でも最高の驚異的な結果の1つであるロジャース--ラマヌジャン恒等式にすみやかにたどり着けるようにした. 次いで,整数の分割のさまざまな魅力的な側面に触れるために必要な母関数の知識を与える.  本書は幅広い読者層を意識している.当然,整数の分割についての学部学生向け講義の理想的教科書となることが望ましい.そこで,話題を 1 学期間の講義に適当な分量にとどめ,手ごろな長さの本となるように努めた.また,高度な数学の教育を受けてはいないが数学への興味を抱いている多くの人々にとっても,ぴったり合ったものとなることを希望している.最後に,基礎的な数学の知識さえあればどんな人にとっても, 本書は整数の分割へのしっかりとした入門書となると思う.  本書の記述を読みやすくし,さらに読み進めたくなるようにと,議論の多くを省いて節末の演習問題に回すことにした.巻末には,多くの演習問題の解,または,ヒントがのせてある.演習問題の難易度はいろいろである.演習問題に何を期待すべきかを知らせるために,以下の基準に従って難易度の評価が記してある.

 難易度: 1 容易,2 多少は工夫を要する,3 挑戦的課題.

 本書の企画は,われわれが 2000 年にフィラデルフィアで開かれた研究集会で出合ったときに始まった.それ以来,執筆はスウェーデンとアメリカの間での手紙や電子メールのやり取りによって行われた. われわれは,多くの人々から受けた手助けに感謝を述べたい.アート・ベンジャミン,カール・ヤーガーは,原稿をすべて読んで多くの間違いを見つけ出し,有益な助言を与えてくれた.キャシー・ウィーラントはペン・ステート*)で原稿の入力をしてくれた.ブラント・クロンホルム,ジェームズ・セラーズ,イ・エジャは校正刷のチェックをしてくれた.ケンブリッジ大学出版局は,注意に満ちた編集上のアドバイスを与えてくれた.ジム・プロップは第 11 章に関して広範な有益なコメントを寄せてくれた.

ジョージ・アンドリュース キムモ・エリクソン

日本語版に寄せて  私たちの本『整数の分割』が日本の読者に届けられることは,大きな喜びです.訳者の綿密な仕事によって,日本語版では多数のミスプリントが訂正されたことに感謝します.

G.A. K.E.

*) ペンシルバニア州立大学のこと.著者アンドリュ−スの所属大学.