空間とベクトル増補版

川徹郎・松本幸夫 著
A5判・並製・256頁・定価2700円+税

「内積」をキーワードとして幾何学のいろいろな話題を紹介. 幾何学における内積の重要性を説く. 放送大学の印刷教材をもとに, 特殊相対性理論の簡単な解説を加え,「増補版」とした.

まえがき

幾何学であつかう長さや角度はベクトルの内積を用いて表すことができます.
また,内積を変えない変換を合同変換といい,合同変換でうつりあう図形を 互いに合同な図形といいます.このように,ベクトルの内積は幾何学におい て重要な役割を演じます.

この本では,「内積」をキーワードとして幾何学のいろいろな話題を紹介しま す.はじめに合同変換の分類,曲線論,曲面論を展開します.つぎに,ベク トル場の微積分,いわゆる「ベクトル解析」を解説し,そこでも内積が不可欠 であることをみます.最後に,通常の内積と異なる「擬内積」を伴ったミンコ フスキー空間が非ユークリッド幾何と相対性理論を考える枠組みを提供するこ とを学びます.これらの学習を通して,幾何学における内積の概念の重要性を 理解していただくことがこの本の目的です.

この本は 15の章から成り立っています.

第 1章から第 4章までは内積を伴った空間としてユークリッド空間の概念 を導入し,その合同変換の分類を行います.応用として,対称性をもつ図形を それ自身にうつす対称変換を考え,立方体の対称変換全体を分類してみます.

第 5章と第 6章は空間内の曲線の話です.第 6章で学ぶフレネ・セレーの公式 は曲線の分類を考える上で重要な働きをします.第 7章から第 10章までは空間 内の曲面の合同変換による分類です.曲面の第 1基本形式と第 2基本形式が ここでの主役です.

第 11章から第 14章まではベクトル解析をあつかいます.第 11章と第 12章では 平面上のベクトル場を,また,第 13章と第 14章では空間内のベクトル場を 考えます.

最後の第 15章では,擬内積を伴ったミンコフスキー空間を導入し, 3次元 のミンコフスキー空間が「双曲幾何学」とよばれる非ユークリッド幾何学と深 く結び付いていることを学びます.
4次元のミンコフスキー空間は相対性理論の枠組みとなります.

各章末には演習問題がつけてあります.多くは基本的な問題ですが,かなり 計算を要する問題もあります.積極的に取り組んでみてください.

巻末に簡単な解答を載せておきましたので参考にしてください.
最後に,さらに詳しく勉強されたい方のために参考文献をあげておきます.


[1]川徹郎『曲面と多様体』|講座|数学の考え方,朝倉書店 (2001)
[2]深谷賢治『電磁場とベクトル解析』岩波講座,現代数学への入門 (1995)
[3]河野俊丈『曲面の幾何構造とモジュライ』日本評論社 (1997)


[1]は第 5章から第 10章まで, [2]は第 11章から第 14章まで,そして,
[3] は第 15章を,それぞれ書くときの参考にさせていただきました.

この本はもともと, 2009年から数年間,放送大学で行った講義のための印 刷教材として書いたものです.このたび横山伸氏の御好意によりあらためて 数学書房から出版していただくことになりました.著者として大変うれしく, 横山氏に深く感謝する次第です.出版に際し,第 15章の最後に, 特殊相対性理論の簡単な解説を補足として付け加え,「増補版」としました.


2018年 7月
                      川徹郎・松本幸夫

目次

第 1 章 ユークリッド空間と合同変換

1.1 ユークリッド平面
1.2 ユークリッド空間
1.3 平面の合同変換
1.4 空間の合同変換

第 2 章 合同変換の分類

2.1 鏡映
2.2 2つの鏡映の合成
2.3 合同変換の分類

第 3 章 ベクトルと行列

3.1 直交行列と合同変換
3.2 ベクトルの外積
3.3 合同変換と不動点
3.4 行列による表示
3.4.1 不動点集合が平面の場合
3.4.2 不動点集合が直線の場合
3.4.3 不動点集合が 1点の場合

第 4 章 標準形の応用

4.1 立方体の対称面
4.2 対称軸
4.2.1 Mxyと Mxzの合成:
4.2.2 Mxyと MABGHの合成:
4.2.3 Myzと MABGHの合成:
4.2.4 MABGHと M DAFGの合成:
4.3 まとめ

第 5 章 空間内の曲線

5.1 曲線のパラメーター表示
5.2 速度ベクトルと弧長
5.3 曲率ベクトルと曲率

第 6 章 フレネ・セレーの公式

6.1 円軌道と螺旋軌道
6.2 捩率とフレネ・セレーの公式
6.3 自然方程式

第 7 章 いろいろな曲面

7.1 曲面のパラメーター表示
7.2 2次曲面のパラメーター表示
7.3 いろいろな曲面

第 8 章 接平面と第 1基本形式

8.1 接ベクトルと接平面
8.2 第 1基本形式
8.3 懸垂面と螺旋面

第 9 章 第 2 基本形式

9.1 単位法ベクトルとガウス写像
9.2 第 2 基本形式

第 10 章 曲面の種々の曲率

10.1 曲面に含まれる曲線の曲率
10.2 主方向と主曲率
10.3 ガウス曲率と平均曲率
10.4 曲面論の展開

第 11 章 ベクトル場

11.1 平面上のベクトル場
11.2 勾配ベクトル場
11.3 回転
11.4 発散
11.5 まとめ

第 12 章 ベクトル場の線積分

12.1 勾配ベクトル場には渦がない
12.2 法ベクトル型の線積分
12.3 ガウスの発散定理の証明
12.4 接ベクトル型の線積分
12.5 補足:ケーキ形についてのガウスの発散定理の証明

第 13 章 空間のベクトル場

13.1 勾配と発散
13.2 ベクトル場の回転
13.3 微分操作のまとめ
13.4 曲面の面積

第 14 章 ベクトル場の面積分

14.1 曲面上の関数の積分
14.2 ベクトル場の面積分
14.3 ストークスの定理
14.4 ガウスの発散定理:空間の場合

第 15 章「擬内積」とミンコフスキー空間

15.1 擬内積
15.2 双曲幾何
15.3 ポアンカレ円板
15.4 補足:相対性理論

演習問題解答