テキスト理系の数学9 確率と統計

道工 勇 著
A5判・並製・372頁・4200円+税

本書は,大学学部の1,2年生を対象とした確率・統計の入門書である. 新入生の多くは「確率」の名称や概念にはある程度免疫があっても, 「統計」となるとほとんどあるいは全く知らない状態であろう. しかも統計の考え方になじめず,拒否反応を示す場合も少なくない. 本書はこのようなことを念頭に,初学者向きに統計学の基本的な考え 方をわかりやすく解説することを心掛けて書かれたものである.

まえがき

まえがき


本書は,大学各学部の1,2年生を対象とした確率・統計の入門書である. 通年科 目のテキストとして,あるいは前期に確率(第1章〜第7章),後期に統計(第8章〜 第11章)と2つに分けて,半期2単位用の教科書あるいは参考書として使用すること を念頭に書かれている. 大学に入学してくる学生諸君の多くは「確率」の名称や 概念にはある程度免疫(メンエキ)があっても,「統計」となるとほとんどあるい は全く知らない状態であろう. しかも統計の考え方になじめず,拒否反応を示す 場合も少なくない. 本書はこのようなことを念頭に,初学者向きに統計学の基本 的な考え方をわかりやすく解説することを心掛けて書かれたものである. そのた め,本書はつぎのような特徴をもっている.

 (1) 基本的な概念の説明に重点をおいている.したがって,具体的な題材を例題に取り入れ,その問題を解くことによりその理解が深まるように留意した.
 (2) 統計学の内容をより深く理解できるように題材の配列,提示の仕方に工夫を凝らした.従来の数理統計学の分類にはとらわれずに,シチュエーションを先に与えて,問題解決型導入方式により,前提条件や仮定の違いにより使われる統計手法がどのように変化するのか,という全体の流れを重視した.また公式を与えてそれに当てはめる作業より,その公式そのものの成り立ち,導出過程もできるだけわかるように記述し,初心者によく理解できるように配慮した.
 (3) 読者の興味のシチュエーションから自由に学習できるように,説明や式の導出の重複や記述の冗長さはいとわない方針で執筆した.したがって,無駄を省き,論理の構造上定まる形式的順序に則り効率良く学習を進めることよりも,興味本位に好きな所からつまみ食いしながら楽しく学べるように,初学者の学習の便を優先する方針をとった.

たとえば,学生は年少のころより塾や予備校から配布される成績評価・判定基準 などの膨大な受験資料にさらされているし,社会人はニュース,新聞,雑誌,アン ケート,市場調査,あるいは業務成績,販売実績,報告書などを通して毎日浴びる ほどの統計データの中で過ごしている.現代ほど統計資料が氾濫している時代はな いであろう.その一方で,普段なにげなく直面する様々な自然・社会現象を統計的 に見たらどうなるかについては無関心な場合が多く,そのギャップがこれほど著し い時代も他に類をみないのではないか.

現代はモノの仕組みが全く見えないか或いは見えにくい社会である.モノの中味 の仕組みを知らなくても,便利なら使ってトクをすればよいという考えが当たり前 になっている.統計にしても例外ではあるまい.そのことが却って,統計の中味の 本質的理解ばかりでなく,統計の利用自体をも遠ざける結果になっているのではな いか.また逆に統計の活用に積極的な人の中には,十分にその中味(=前提条件や 適合条件)をよく吟味しないまま,気づかずに誤用や乱用に至る場合も少なくない. また統計ソフトなどのように,データを入力しさえすれば,あとはボタンひとつで 何らかの答えが出てきてしまうのも,乱用を助長している要因の一つであろう.統 計は本来,易しいとか難しいとか云うものではなく奥深いものであり,その取り扱 いには細心の注意が必要であること,しかしその使い方のちょっとしたコツさえ一 旦会得したなら,その利用価値は数倍にも広がることを喚起したい.

本書では統計のユーザーの立場に視点を置き,医療統計,生物統計,工業統計, 教育統計,心理統計などからできるだけ広範囲に題材をとるように注意し,使用さ れる統計技法を入門レベル,初級レベル,中級レベルと段階を経て発展的に紹介す るように心掛け,合わせて統計的手法の効用と限界についても言及した.本書の隠 されたもう1つの意図は単なる「統計学への入門」ではなく,見えないモノを見え るように,理解しにくいモノを理解できるようにして,データに隠された諸事実を 明らかにし,よりよく説明するために統計学の知識を活用したい人が最初に超える べきハードルへの道案内を目指している.それぞれの各専門分野において,数字と 統計を使って何かモノを主張したいと考えている人に,必要な基礎知識とその使い 方および使用の際の注意事項を伝えることが主な目的である.つまり本書はあくま でも統計技法に関する初学者が最初に接するべき基本的マニュアルにすぎないので, さらに詳しい知識や実践的な使い方を習得し実績を挙げたいと考えている人は,必 ずより高度な専門書に自ら当たっていただきたい.読者が本書を足掛かりに確率・ 統計に興味をもたれ,自ら専門書に挑戦されることを切に期待している.


目次

目次

第1章 確率
1.1 事象と確率
1.2 離散型確率モデル
1.3 条件付き確率
1.4 独立性
1章の演習問題


第2章 確率変数
2.1 確率変数と確率分布
2.1.1 確率変数の定義
2.1.2 離散型確率変数
2.1.3 連続型確率変数
2.2 分布関数
2.3 多次元分布関数
2.3.1 2次元確率ベクトルの場合
2.3.2 n次元確率ベクトルの場合
2章の演習問題


第3章 確率変数の変数変換
3.1 離散型確率変数の変数変換
3.2 連続型確率変数の変数変換
3章の演習問題


第4章 確率変数の期待値と分散
4.1 期待値
4.1.1 離散型確率変数の平均値
4.1.2 連続型確率変数の平均値
4.1.3 スチルチエス積分と期待値
4.2 分散
4.2.1 離散型確率変数の分散
4.2.2 連続型確率変数の分散
4.3 共分散と相関係数
4章の演習問題


第5章 母関数と特性関数
5.1 確率母関数
5.2 積率母関数
5.3 特性関数
5章の演習問題


第6章 いろいろな分布
6.1 離散型分布の例
6.1.1 2項分布
6.1.2 ポアソン分布
6.1.3 幾何分布
6.1.4 負の2項分布
6.1.5 超幾何分布
6.1.6 多項分布
6.2 一様分布
6.3 指数分布
6.4 正規分布
6.4.1 正規分布の基礎事項
6.4.2 応用例
6.4.3 偏差値について
6.4.4 2項分布の正規近似
6.5 ガンマ分布
6.6 カイ2乗分布
6.7 スチューデントのt分布
6.8 エフ分布
6.9 その他の連続型分布
6.9.1 ベータ分布
6.9.2 コーシー分布
6.9.3 ワイブル分布
6.9.4 対数正規分布
6.9.5 ロジスティック分布
6.9.6 パレート分布
6章の演習問題


第7章 極限定理
7.1 確率収束と分布収束
7.2 連続定理
7.3 大数の法則
7.3.1 チェビシェフの不等式
7.3.2 大数の弱法則
7.3.3 大数の強法則
7.4 中心極限定理
7.4.1 ド・モアブル=ラプラスの中心極限定理
7.4.2 中心極限定理
7章の演習問題


第8章 標本と基本統計量
8.1 母集団と標本
8.2 統計データの処理
8.3 2次元データの整理
8章の演習問題


第9章 点推定と推定量
9.1 点推定
9.2 最尤法と最尤推定量
9.3 モーメント法
9.4 各種の統計量
9.5 他の種類の推定量
9章の演習問題


第10章 区間推定
10.1 正規母集団の母平均の区間推定
10.1.1 分散既知のケース
10.1.2 分散未知のケース
10.2 正規母集団の母分散の区間推定
10.2.1 母平均既知のケース
10.2.2 母平均未知のケース
10.3 母比率の区間推定
10.3.1 大標本のケース
10.3.2 小標本のケース
10.4 2標本の場合の区間推定
10.4.1 2標本正規母集団の母平均差の区間推定
10.4.2 2標本2項母集団の母比率差の区間推定
10章の演習問題


第11章 仮説検定
11.1 検定の考え方
11.1.1 仮説検定の基本的な考え方
11.2 母平均の検定
11.2.1 母分散既知のケース
11.2.2 母分散未知のケース
11.3 母平均差の検定
11.3.1 母分散既知のケース
11.3.2 母分散未知:等分散のケース
11.3.3 母分散未知:非等分散のケース
11.3.4 対をなす2標本の場合の検定
11.4 分散比の検定
11.5 母分散の検定
11.5.1 母平均既知のケース
11.5.2 母平均未知のケース
11.6 母相関係数の検定
11.6.1 正規母集団の母相関係数の検定
11.6.2 無相関の検定
11.7 母比率の検定
11.7.1 大標本のケース
11.7.2 小標本のケース
11.7.3 母比率差の検定のケース
11.8 適合度の検定
11.8.1 単純仮説のケース
11.8.2 複合仮説のケース
11.9 独立性の検定
11.9.1 .×m分割表による検定
11.9.2 2×2分割表による検定
11.9.3 フィッシャーの直説法による検定
11.10 検出力とネイマン・ピアソンの定理
11.10.1 検出力
11.10.2 一様最強力検定
11.10.3 ネイマン・ピアソンの定理
11章の演習問題


付章 Appendix
A.1 積分公式の証明
A.1.1(その1)・微分可能性定理に基づく証明
A.1.2(その2)・フビニの定理に基づく証明
A.1.3(その3)・複素関数論におけるコーシーの積分定理に基づく証明
A.2 7.1節および7.2節の諸結果の証明
A.2.1 ルベーグの収束定理
A.2.2 命題7.2(一意性定理)の証明
A.2.3 定理7.2(ヘリーの定理)の証明
A.2.4 定理7.3(プロホロフの定理)の証明
A.2.5 KeyLemmasの証明
A.3 簡単な補題集
A.4 重要な公式集

演習問題の略解とヒント
参考文献および引用文献


付録:数表
1. 2項分布表
2. ポアソン分布表
3. 正規分布表
4. カイ2乗分布表
5. スチューデントのt分布表
6. エフ分布表
7. z変換表