複素関数入門 原書第4版新装版

R.V.チャーチル/J.W.ブラウン著 中野實訳 ・312頁 A5判
3,000円(税込) ISBN 978-4-903342-00-9

訳者より読者へ

本書はR.V.Churchill/J.W.Brown 著 Complex Variables and Applications (4th edition) McGraw-Hillの邦訳である. 原書は,世界的に評価が定着している教科書であり,その第3版の邦訳が 前『複素関数入門』であり,本書は第4版の日本語訳である. 複素数については高等学校で学ぶが, ``関数''に関しては実数についてのみである. 複素変数関数は実変数関数とまったくかけはなれているのであろうか.実際両者には, まったく異なるところもあり,よく似たところもある. ・$\sqrt{5}$, $5^5$ と同じように,$\sqrt{i}$ や $i^i$ が計算できてもいいのではないか. ・$\sin x = 10$ は解をもたないのか? ・$\log(-5)$ の値は存在しないのか~? ・$(x^{3/2})' = \dfrac{3}{2} x^{1/2}$ であるが,$(x^i)'=ix^{i-1}$ は成り立たないのか~? ・$\int_a^b f(x)dx$ の積分 $[a,\, b]$ の代りに,曲線にしたらどうなるのか~? このような疑問に答えるためには,実数の範囲を超えて,複素数で考えればすべて解決が つくのである. 本書は,高校で学ぶ数学の知識だけでは理解できない部分が少しあるが,大学初級で学ぶ 実変数に関する微分積分学をひと通り終えた人には容易に理解できるよう工夫されている. しかも数学的厳密さはいささかも失っていない. 理工系・教育系の大学生にとって,また高等専門学校においても良き教科書,演習書または 参考書となるであろう.数学科の学生にとっては気軽に読める参考書である.高校生でも, 前もって偏導関数について学べば,すぐ本書にとりかかることができる. 図を多く使い,易しい例を数多くあげて定理を解説してある.練習問題は500題以上ある. これらを解くことにより,一層理解を深めることができるであろう. 前版翻訳書と同様,原著をすべて翻訳することはせず,一部を割愛した. さらに,本書においては,次の点に工夫を加えた.  (1) 直訳でなく,こなれた分かりやすい翻訳に留意した.  (2) 「定理」,「例」を見やすくした.  (3) 式の変形過程が分かりやすいように,∴ や ⇒ を用いた.  (4) 練習問題を章末に,その解答をすべて巻末にまとめた    (原著では,一部の練習問題にのみ解答が付されている).  (5) 例や練習問題の解答が理解しやすいように,新たに図を付け加えた.     (2)については,原著の練習問題の一部を本文の例として引用し解説した.     (3)については,特に式の変形の方法や変数変換などを.式の後ろに( )で示した.     (4)については,特に線積分,留数,実積分の計算を詳しく書いた. この他,原著では参考文献としてのみ引用してある,コーシー・グルサの積分定理を 応用した代数学の基本定理の証明は,その文献を翻訳して本文中に示した.また,人名 には生年と没年を,専門用語にはできるだけ読み方を付けた. 本書の出版準備に際して,慶應義塾や廣済堂の施設を利用させていただいたり, 多くの人の協力を得た.特にマグロウヒルの梶川寧と杉谷繁両氏には大変お世話になった. また,本書のもとである前版(原著第3版)の出版を勧めてくださった慶應義塾大学名誉教授 の故田島一郎先生,電気通信大学名誉教授の高野一夫先生,慶應義塾大学の宮崎浩先生に, 合わせて感謝の意を表したい. 1989年3月 訳者しるす

目次

第1章 複素数 第2章 正則関数 第3章 初等関数 第4章 積分 第5章 級数 第6章 留数と極 第7章 初等関数による写像 第8章 等角写像とその応用 第9章 解析接続とリーマン面 練習問題の解答